2014/02/04

ロックよりもロールが大事

昨日、名古屋の大須演芸場が半世紀近くの歴史に幕を下ろし、閉場とのこと。記念に、むかし雑誌『KAMINOGE』の連載コラムに書いた原稿を転載しておきます。

「ロックよりもロールが大事」

同じ日に名古屋のライブハウスでイベントに出演していたため遊びにいけなかったのだが、8月26日にザムザ阿佐ヶ谷で開催された『KAMINOGEロックフェス』は大盛況だったとのこと。いやはやメデタイかぎり。でもってこちらはその翌日、日本イチお客が入らないことで有名な大須演芸場へも足を運んでみたのだった。『KAMINOGE』創刊号にも登場した快楽亭ブラック師匠が、昨年から月に10日ほど出演しているのである。

大須演芸場といえば、あのツービート結成の地でもあり、かつてはその窮状を救うために、故・古今亭志ん朝が一肌脱いで独演会を開いたなんて話もあったりする(そのときの音源が最近CDブックとなって発売され、42,000円という価格にもかかわらず、飛ぶように売れているらしい)由緒ありすぎる演芸場でもある。もっとも私が最初にその名を知ったのは、エッセイ漫画『風とマンダラ』で有名な落語家の元・立川志加吾が、他の前座とともに破門となり、巡り巡って名古屋に拠点を持つ雷門小福の門下に移り、雷門獅篭の名で出演している会場としてだった。最近はブラック師匠も定期的に出演するようになったことから、立川流をハジかれた弟子は大須へ、と私の中では勝手に認識してしまっている。しかもブラック師匠の弟子のブラ坊まで、前座として寄席に出演。立川流がいまだもって定席に出られないのに対して、ちゃっかり名古屋で毎月10日も寄席に上がっている快楽亭一門はさすがの一言である。

地図を頼りに大須演芸場に辿り着くと、1台のクルマが入り口前に止まる。後部座席からは、なんと私服のブラック師匠。タイミングよすぎ! お客さんに送迎してもらったそうで、そりゃブラック師匠、名古屋が好きになるわな。訊けば師匠の出番までまだ1時間ほどあるが、入場料の1,500円を払って、まずは中へ。

日曜ということもあり、客席はツ離れして十数名ほど。かつら竜鶴の三味線漫談が始まったところだった。客席最前列のおばあさんが、舞台上の呼吸無視でなにか大声でリクエストするも、「それは今日はできん」とすげなく却下。素人の私でもわかるぐらいチューニングの狂った三味線で、弾く手もおぼつかない竜鶴師匠だが、それも含めて得難いおかしみがある。続いて桂文珍門下の桂珍念が登場。「時うどん」を手堅く聴かせる。元・司会者だという早川洸志の漫談は、冒頭から元横綱・朝青龍関の暴行ネタっていう微妙な古さに、なぜかこちらが戸惑ってしまう。

ここでようやくお目当てのブラック師匠登場。前日に観てきたという大曲の花火大会の話から、「たがや」へ。師匠の「たがや~!」のかけ声に、やはり最前列のおばあさんがお茶の間でテレビでも観ているような間合いで、「イイ声ねえ~」。師匠もさらっと流していく。こんなことは日常茶飯事なのだろう。寄席の快楽亭ブラックを堪能した。

ブラック師匠の出番終わりで演芸場を出ようとするも、演歌歌手・坂井千春の登場に足が止まる。けっして若くはないが夢を捨てきるほどの歳でもない容姿、世の場末という場末を渡り歩いてきたような身のこなし。かつてメジャーデビューしたが、いまはインディで活動しているという彼女が、どのようにして大須に辿り着いたのかに想いを馳せながら、つくづく思った。ロックよりもロールが大事!

次回『KAMINOGEロックフェス』に坂井千春を、とは思わないが、ブラック師匠ならいつでも準備できているので、ぜひ。今井良晴リングアナとツーカーの師匠は、「湯屋番」ならぬ「全女番」という、ミゼットレスラー大活躍の一席を聴かせてくれるはずだ。

また、この夏のプロレス・ミーツ・ロックフェスといえば、毎年アントーニオ本多がMCを務め、今年はDDTが提供試合も行うという『夏の魔物』(ちょうど本誌が発売される頃に開催)も気になるところだが、9月1日に大阪の服部緑地で行われた『ヒザフェス』に関西国際プロ・レスリングが出場したことも忘れてはならないだろう。会場まで行っておきながら、降り出したゲリラ豪雨が止むのを喫茶店で待っているうちに彼らの試合を見逃してしまった私だが、それでも彼らのステージについてインターネット検索を怠ったりはしない。フェスの主催者・ヒザ氏のブログによれば、雨を含んでしまい硬度の増したプロレスマットの上で、『ヒザフェス』を破壊しにきたフェス刈りマシーン選手を奥飛騨純選手が奥飛騨固めで破り、見事フェスの平和を守ったとのことだ。おかげで、私はそのあと会場にて、肉弾パフォーマンス集団・男肉 du Soleiや、前野健太とDAVID BOWIEたちの演奏を堪能することができた。

それにしても『ヒザフェス』である。開催理由がすごい。会社員ヒザ氏が、「フェスのトリで歌いたいから」というもの。そんなリアル・ジャイアンリサイタルに、社会人プロレスからプロミュージシャンまで招聘し、観客を500人以上も集めたのである。しかも観客入場料はすべてタダ! さらには焼きホタテが無料で振る舞われるという太っ腹ぶりだ。もちろん経費や機材費、出演者のギャラはすべてヒザ氏の持ち出しである。ほぼ同じような理由で開催されていたセッド・ジニアスの興行だって、こうはいかないだろう。フェスのトリで、「ヒザバンド」なるバックバンドを従えて『ヒザのテーマ』を歌い、万雷の「ヒザコール」に応えるただの会社員・ヒザ氏の姿を観ながら、同行した友人がしみじみと言った。
「これ、どう見ても夢オチのフリでしょ」
いや現実なのだ。世の中にはまだまだとんだトンパチがいる。

(初出:『KAMINOGE』vol.10)