2013/04/07

ポップな反重力

◆昨夜から文字どおりの嵐とともに幕を開けた「MOOSIC LAB 2013」。審査員を担当しているのでコンペ部門は全作品、劇場で拝見する所存ですが、オープニング作品となったAプログラム1本目の『ダンスナンバー 時をかける少女』(監督:三浦直之/音楽:倉内太)が予想を上回るポップな反重力っぷりだったので、その素晴らしさを讃えたく、以前に『音楽と人』の連載で書いた原稿を以下に転載させていただきます。

「ロロと倉内太のポップな反重力」
文=九龍ジョー

2012年11月25日、下北沢のTHREEというライブハウスに、まだつきあう前の〈キッド〉という男と〈天球〉という女が倉内太のレコ発ライブを観にきている。倉内本人がそう告げると、フロアにいる一組の男女に皆の視線が注がれる。
「この3年後に天球は死んじゃいます」倉内が呟きながらリフを鳴らす。天球がバランスを崩し背中から倒れそうになるのを、後ろにいたキッドが抱き支える。
「ごめ~ん」女は照れ隠しで男に話しかける。男は女にビールを奢る。音楽が止む。女が口を開く。「倉内さんのライブ、どう?」「いい……よね?」「ね? メッチャいいよね!!」
だけど、続く音楽談義は微妙に噛み合わない。突然、男が女に告白する。告白しておきながら自分で恥ずかしくなったのか、返事を待たずにステージに駆け上がり、突っ伏す。倉内がギターで『ぼくはきみが好き』を演奏すると、男がサビを絶叫する。女もステージに上がる。
ここからが見せ場だ。
離れて置かれた2本のスタンドマイクの前にそれぞれが立ち、何度もポジションを入れ替えながら、告白と別れのシーンを繰り返す。男がポエムを読み上げる。
「いまの君も、かつての君も、それぞれ別個に愛しているんだZE。ゼット・イー」

以上は、倉内太のレコ発ライブで行われた劇団ロロと倉内による短篇劇『キッドのポエム』の一幕だ。これが初コラボとは思えないほどハマっていたのは、ロロの劇作家・三浦直之と倉内太の世界観に通じるものがあるからだ。
ふたりが出会ってからまだ1年経っていない。三浦と会うより前にロロの公演『LOVE02』を観劇していた倉内は「これはぼくの話だ」と思ったという。一方、三浦も倉内の「こわいおもい」という曲を聴くたびに『LOVE02』のことを思い出すそうだ。
共通しているのは、誰かへの想いの強さ。それもけっして届かぬ想い。強すぎて、ぜんぜん別の誰かに届いてしまうほどの想い。それってポップソングの原点みたいなものだけど、このふたりの場合、想いの純度がハンパない。

このライブの前日、ぼくは慶應大学の学祭内で開催された「プチロッ"クラス"」という企画で、倉内と三浦とともにプロレスについての講義をしていた。
まずは「反重力」というキーワードで、覆面レスラー・ミスティコの派手な飛び技の映像を紹介。続いて「見立て」「ドラマツルギー」「サイコロジー」といったキーワードについて、やはり映像を流して解説していく。この順番には意味があって、最初に挙げた「反重力」こそが他のすべてのキーワードを支える根拠になっている。もちろんミスティコがいくら華麗に跳躍しようとも、実際に重力を克服しているわけではない。さまざまな工夫で、身体が軽くなったように見せているだけだ。しかし、そうやってリアルな身体のかったるさを消去することにより、レスラーは〈キャラクター〉と化す。と同時に、やっぱりこの星の重力も引きずっている。レスラーの抱えるこの「二重性」こそが、ぼくたちの心を動かすのだ。

下北沢THREEでのあの一幕を思い出してみる。
小劇場演劇に慣れ親しんでいないライブハウスの観客が、キッドと天球の突然の演技にとまどう可能性だって十分にあったはずだ。けれども一発でスウィッチが入った。天球役の島田桃子がフッと重力を失い、背後のキッド役・亀島一徳に体重をあずけた瞬間、皆が息を呑んだ。二人のアクションが、ぼくには、ミスティコの場外へのケブラータとそれを受け止める相手レスラーの姿にダブって見えた。

日常の重さやシリアスさをちょっと軽くしてくれる感覚が、倉内太の音楽にもある。倉庫内作業員の毎日を宴に変えてしまうようなささやかな魔法が。ウソだと思うなら、出たばかりの彼のファーストアルバム『くりかえして そうなる』を聴いてみてほしい。

レコ発の翌日、つまりは11月26日、「MOOSIC LAB」という企画の一環で、監督・三浦直之/音楽・倉内太による映画が制作中であるとアナウンスされた。
2013年公開予定だというその作品のタイトルは、『ダンスナンバー 時をかける少女』。
そう、大林宣彦を上回る強い想いを、時をかけるほどの反重力で。
彼らならやってくれるはずだ。

(初出:『音楽と人』2013年1月号)



◆発売中の『CDジャーナル』4月号にて、「MOOSIC LAB」プロデューサーの直井卓俊さんとライターの松永良平さんとともに「あたらしい音楽×映画」という鼎談をしています。近年の音楽と映画の関わりについて、僕がキーだと思う5本の映画も紹介。よかったらぜひご覧ください。