2009/05/31

対話よりもおしゃべりを

『1Q84』、まだ読めていないが、『海辺のカフカ』を読み返したり、雑誌でいくつか村上春樹がらみの記事など読んだ。

Alteなかでも、この人にかぎってはこのタイミングというわけでもないのだろうけど、『オルタ』に載った杉田俊介「性暴力と失語――村上春樹『風の歌を聴け』ノート」がよかった。
かつて岡田利規は杉田俊介の思考スタイルについて「引き延ばし」という言葉をつかったが、今回も軸足はまったく動かさないまま、もう片方の足をより遠い地点へ飛ばそうとしている。

杉田さんはまず、「信用できない語り手」や「ノート」を手がかりに、『風の歌を聴け』が、その内在する重層的な失語とどのようにまみえた小説であるかをあきらかにする。
他人を騙すのみならず自分への嘘こそが嘘の純粋結晶体なのであり、性暴力の核心には「自分に嘘をつくこと」のブラックホールがある。自己欺瞞がおそろしいのは、他人や自分の言動の矛盾や微少な虚偽を責めれば責めるほど、自己欺瞞の澱が溜まるからだ。大切なのは自己欺瞞は自力では断ち切れない事実を思い知ること、別の言語使用を探ること、しかし非倫理的なアパシーと真剣な嘘の先に、既存の日本語=性分業を猛り狂わせる<真実>が宿るかもしれないことだ――他人の嘘を受け取り(損ね)、交換し(損ね)続ける場、「単純な、個別的な、または偶然的な」交換の場(マルクス)に。ぼくら読者は、『歌』をそんな賭け=嘘として受け取る。
その上で、『風の歌を聴け』の読み直しを図りつつ、その思考は、不穏さすら感じられるとんでもない地平にまで到達してしまう。
ぜひともみさなんにも読んでみてほしいのだけど、とはいえ、軸足はやはりここなんだよなあと思ったのが、
村上は、自分の言葉を自由に所有・操作可能と盲信する人の無自覚な暴力に抵抗し、加害者としての自分の中にすら常にある小さく弱々しいものの胎動に耳を澄ませてきた。論理や対話や論争の場では生き始められない沈黙や失語を。
という箇所。かつて杉田さんがぼくの日記について書いてくれた記事を想起したりもした。
でもって、杉田さんよりもいくらかまだ腰の軽いぼくがいまでも思っているのは、やっぱり「対話よりもおしゃべりを」ってことで。以前の日記(たとえばこれとかこれとか)でも似たようなことを書いたけども、それでも、なんどでもなんどでも同じところに戻ってくるし、そうやってゆっくりと大きな螺旋が描ければいい。
久々に杉田さんの原稿を読み、そのタフで粘り強い思考に触れ、改めてそんなことを思った。

同じ『オルタ』には別の人が書いた「村上春樹のエルサレム・スピーチを批判する」という原稿も載っていて、こちらはぼくですらちょっと雑駁すぎるよなあと感じる代物だった。
それに対するアンサーではないのだろうけど、杉田さんの原稿の中で先取りされている批判がそのまま当てはまっちゃうっていうのもなんとも……(雑誌的には大丈夫なのだろうか?)。
ちなみに杉田さんの原稿はこうだ――。
村上は政治的な作家なのか、という不毛な問いを無数の人が繰り返してきた。それは「政治と個人」の衝突において個の側につく、という話ではありえない。最近村上のエルサレム賞受賞をめぐって、ブログ論壇でキャンペーンや地域紛争が散見された。「村上ファンどもの自尊心と村意識を犬は食ってくれまいが『パレスチナ人』という大儀のために一人の人間を矮小化して恥じない精神の不感症(暴力の自己消去)こそが『イスラエル的』な暴力の縮小再生産に見える」とは今さら言わない。〇九年の今、息絶えつつあるのは、村上が七九年に孕んだ、他者の失語にこそ君もまず失語してくれ、というミニマムな「読むことの倫理」と言える。

Monkeyb他の雑誌では、『モンキービジネス』の古川日出男による村上春樹インタビューが、やはりおもしろかった。
――ぼくも作家を丸十年やってきまして、この機会にあらためて自分が村上さんから受けた影響を洗い出してみたんですが、作品的な影響というよりは作家の背骨としての部分でまず、村上さんの「肉体から小説を作るんだ」という覚悟と信条ですね、それに影響されて、自分なりにひたすら実践してみるっていう感じできたなあと痛感しました。
村上 肉体から――ということについて言うと、これは本当に単純な話で、ぼくは二十代の間、ずっと肉体労働をやってきたわけです。ジャズ喫茶みたいなバーみたいな店を持っていて、そこで毎日立って動いて、重いものを運んだり、なんのかんのと朝から夜遅くまで、かなりきつく体を動かしていました。贅肉なんかつく余裕もなかった。それが三十歳の時に唐突に小説を書き始めて、そっちの仕事が忙しくなってきたんでやがて店を畳んで、それからは机の前に毎日座って書き続けるという、これまでとはがらりと正反対の暮らしに変わっちゃった。その時、これは身体を鍛えておかないとまずいぞ、とつくづく思ったんですよ。机の前に座って一日何時間も仕事をするって、すごく疲弊しますよね?
――かなりします。
村上 だからここのところでしっかり身体をつくっておかないといけないと思ったんです。[後略]
――で、実際に体を鍛え始めてからの村上さんの感慨っていうか実感というのは、どういうものだったんですか?
村上 ごく単純に、贅肉つくと小説家は駄目だな、と思いましたね。実感として。
――ああ、いい言葉ですね。
村上 個人的な実感なんで、一般性がどれくらいあるかわからないけど、でもそう思います。とにかく贅肉がつくと身体の動きはそのぶん鈍くなります。身体の動きが鈍くなると頭の回転もやはり鈍くなってきます。ぼくが言うのは、小説家的な頭の動きということですが。もちろん贅肉がついても良い小説を書く人はいっぱいいますよ。ぼくが意味するのはもっと長期的なことです。長い歳月にわたってアクティブな小説家であり続けるには、ということです。
作家どうしだからこそ引き出せる言葉がある。
他にも「短篇」と「長篇」の位置づけや、「人称」問題など興味深い話がたっぷりのロングインタビューだった。

2009/05/25

東京の空は今日もただ青かった

◆なんか一週間ぶんまとめて更新ってサイクルになってますが。

◆火曜日、松江哲明監督『あんにょん由美香』試写@映画美学校。
時間に余裕があったので京橋をふらふらしてたら、築地市場時代のことを思い出してちょっと感傷的になる。長靴でこのへん走ってたよなー。そしたら横断歩道の真ん中で豊田道倫さんにばったり。「なーに暗い顔してんの」とつっこまれてあわあわしてしまった。

で、肝心の『あんにょん由美香』、想像以上の傑作です。感動というより唖然。関係者の方々になんて言っていいかわからず、だまって帰ってしまったよ。
語るべきことは多すぎて手に余り、でもそのすべてを語りつくしてみたいとも思う。ラストショットの場所も含め、映画をめぐる映画でもあった。

個人的な話を二つ。

映画に登場するある俳優さんへの、喫茶店でのインタビューシーン。なんの証拠もないのだけれど、見切れたところにぼくがいます。まったくの偶然。
撮影当時(けっこう前のことだ)、ぼくはある人とそこで話しこんでいて、その人の肩越しに松江監督とプロデューサーのナヲイさんが見えたのです。でも、カメラを回してたり、なんか取りこみ中っぽかったので軽く挨拶しただけだった。まったく気づかなかったけど、あれ、いま思うと『あんにょん由美香』だったんだなー。
ちなみにその数ヵ月後、ぼくが喫茶店で話していた人は、中野サンモール商店街で『童貞。をプロデュース』上映用インターミッション映像の撮影に参加し、主演を務めた、という不思議な話。

もひとつ。「キレなかった14才りたーんず」のロビーで岸井大輔さんとトークするにあたって、ぼくは資料として1997年当時の映画や演劇や音楽のチラシだのパンフレットだのを大量に持っていったんだけど、そのなかには当然のごとく『由美香』のパンフレットもあって、岸井さんと『由美香』についてもずいぶんと熱く語りあったのだった。
その『由美香』のパンフレットは、りたーんずの公演中、ずっとロビーの本棚に資料として置かれていた。

それにしても、松江哲明ですよ。
同じ年に『あんにょん由美香』と『ライブテープ』をものにするなんて、ちょっとすごすぎじゃねーか。

◆水曜日、前野健太が某雑誌の取材を受けているというので覗きにいったら、カメラマンがなんと梅川良満!
前野くんも現場で会ってびっくりしたという。このふたり、大橋裕之先生の監督映画『A・Y・A・K・A』で競演しているんですよね。
数奇な縁というか、世界は狭いというか。梅ちゃんに撮影頼んだ編集者もさすがに驚いていた。

◆エロ本や実話誌時代につくっていたDVDが大量に発掘されたので、金曜、土曜と二夜にわたって、近所の友だちを集めてウチで上映会。
これが自分で言うものなんですが、おもしろい! 床にはいつくばって笑ってしまった。まさかメシ食うための仕事で、こんなにすごい作品群をものにしていたとは自分でも気づいてなかったわ……気持ちわるいぐらいの自画自賛だけど。

◆日曜日、あだち麗三郎レコ発パーティ@三軒茶屋グレープフルーツムーンと、前野健太とDAVID BOWIEたちヒアホン出陣@渋谷O-nestがバッティング。あわわわ。悩みに悩んだ末に、三軒茶屋へ。
東京の空は今日もただ青かった。

レコ発、あだちくんのミュージシャンシップがぞんぶんに発揮された素晴らしいライブだった。ライブハウスのドアを開けた瞬間から、今日はいい夜になるぞって思ったもの。
Tenköさんの乾いた叙情、4 bonjour's partiesの軽やかさ、ついに見ることができたceroの豊饒なエキゾチカ・ロック、三輪二郎の前口上(またもやGLAD ALL OVER!)、そしてそれらすべてを包み込むようなあだち麗三郎のうた。グレープフルーツムーンに、さまざまなリズムや可能性や喜びや思いが共振していた。

あだち麗三郎という人についてはいくつかの場所に改めて書く予定でいます。

この日も大活躍だったMC.sirafu(from 片想い)と一緒に帰る。
MC.sirafu、ぼくと学年が一緒で、育った環境もかなり近いことが判明。同じ児童館に通っていたよ。児童館のことなんて20数年ぶりに思いだしたよ。

2009/05/22

迷子のねずみ

西宮灰鼠さんのライブ(ねずみソロ)映像をYouTubeでみつけた。





ねずみバンドまた観たいな。
ねずみバンドについては、以前『spotted701』にレビューを書かせてもらいました。
Tukiyaku_4ねずみバンド『月と約束
ハヤシライスレコードの佐藤くんがやっている「都会の迷子さん」というライブイベントがある。はじめて遊びにいったとき、いっとう最初にぼくの目の前にあらわれたのがねずみバンドだった。やつらの奏でる音にふれた瞬間、ぼくは都会で迷子になるということの意味をただしく了解した。それからはずっと迷いっぱなしだ。
だから、ねずみバンドについて知っていることはそれほどない。ボーカル・ギターの西宮灰鼠というおとこを中心とした四人組。ドラムとベースはおんなのひとだ。
できたてほやほやのミニアルバムをなんども聴いている。優しさと素直さと残酷さの同居する――つまりは、子どもみたいな音楽。やつらは迷子の天才なのさ。都会の迷子のねずみなのさ。今夜もまたやつらをさがしてしまう。
(九龍ジョー)
ちなみに、ねずみバンドは最近ベースの穂高亜希子さんが抜けて、かわりになんとファンタスタスの尾林星くんが加入したとのこと。

2009/05/20

キャノンボーラーとちんぽ

◆わおわお。前田司郎さんが三島賞受賞
前回の動物大集会で、怪談噺(しかもかなりくだらない)を披露してくれたり、チョロQがどうしたとか「タッチ」がどうしたとかで一緒にゲラゲラ笑ってたのが申し訳なくなるぐらいの快挙。
その時点ではオフレコだったんですが、じつはあの日の打ち上げのときに三島賞ノミネートの連絡が入ってきて、なんかもしかしたらって気はしてたんだ。ほんとうにおめでとうございます!!

というわけで、次の動物大集会も、マッスル坂井さんや松江監督の身にとんでもない栄光が降りかかる可能性大ですので(かなり無責任)、お楽しみに!

◆先週のことを駆け足で――。

◆月曜日、アスミックエースで是枝裕和監督『空気人形』の内覧試写。ペ・ドゥナがすごいことになってる。

夜、阿佐ヶ谷ロフトAで松江監督の「あなたと飲みたい」イベント。
山下敦弘監督をゲストに、なぜかソフト・オン・デマンドからリリースされる山下監督の新作『めちゃ怖』の一部を上映。おおいに笑う。
白石晃士監督の大傑作『オカルト』もそうだけど、水スペとか、矢追イズムとか最高だよね。
オイラも実話誌をガンガンやってたころ、「ヤクザも呪われるマル秘心霊スポット」とかでっちあげては、その筋の人と富士樹海とか行ったものです。『めちゃ怖』にも出てくる雄蛇ヶ池で、村田らむさんに派手な女物の水着を着せて泳いでもらったりしたもんなあ。

◆火曜日、「○○(←知らない苗字)飲み」と手帳に書いてあるのだけど、まったく記憶なし。○○さんという方と飲んだのかどうかすら……。

◆水曜日、いろいろあり、敬愛する先輩と朝まで飲み。いい話続出。

◆木曜日、土佐有明さんのトークイベントへ。「キレなかった14才りたーんず」から篠田、中屋敷、柴、神里と4人の演出家がゲスト。
やはりというか、途中でロビーの話になり、オイラもトークに混ぜてもらう(本来なら岸井さんが話すべきなんだろうけど、残念ながら欠席)。
神里くんがすごい。土佐さんもある意味すごい。あと、白神さんのロンドン中継が神懸かってた。

快快のメンバーにどっかいい公演場所ないかと聞かれて、とっておきのを教える。我ながら、実現しちゃったらすごい! と思う。

そしてこの日、大橋裕之先生の単行本『音楽と漫画』がついに発売。
古澤健監督がすてきなPVをつくってくれました!



◆金曜日、JUNRAY DANCE CHANG「アオイロ劇場」 @世田谷パブリックシアター。
康本雅子復活!! につきる。
オイラの席の前をカメラ片手にRyuちゃんが駆け抜けていった。終演後、会場出たところでバサラブックス店長Sくんの奥方にばったり。やはり康本さんを見にきたとのこと。

◆土曜日&日曜日、オオハシキャノンボール!!
あまりにも楽しすぎて、充実しすぎて、書く気力が……。スタンプラリー、コンプリートされた方が4名、3つ以上参加された方が8名と、それだけでもうやってよかったと思えるのです。
ご協力いただいた方々、遠くから応援してくださった方々、なにより参加してくださった方々、ほんとうにありがとうございました。

全イベントをコンプリートされた方の日記を発見。
ほんとうにありがたいことです。

◆土曜日、円盤イベントの前にみんなでChim↑Pom「捨てられたちんぽ展@ギャラリー・ヴァギナ(a.k.a. 無人島プロダクション)」に寄る。入り口に梅ちゃんこと梅川良満がいて、もう一人の梅ちゃんこと童貞2号・梅澤くんとのバッティングに笑う。梅ちゃん(梅川良満のほう)、Chim↑Pomの要請でオフィシャル写真を撮影したとのこと。中に入り、そのオフィシャルもくそもないちんぽっぷりにさらに笑う。

◆梅川良満といえばホームページがリニューアルしていい感じです。
ここで触れたマッスルの写真もしっかりアップされています(ジャケットのみだけど)。

康本雅子さんも、オオハシキャノンボール@円盤でお世話になった虹釜太郎さん(大橋先生の紙芝居にも登場!)も何度か梅ちゃんに撮ってもらったことがあって、やっぱりどれもすばらしい写真なんだ。あれもいつかちゃんと出せる日がくるといいなー(というか出せるようにしないとな)。

2009/05/15

クリエイターとウソとホント

日記にあわせて書こうと思っていたらいつまでたってもアップできないままなので、先に告知させてください。

来月の6月8日(月)に、プロレスラーのマッスル坂井さんとドキュメンタリー作家の松江哲明監督のイベントを阿佐ヶ谷ロフトAで開催します。ぜひとも気軽に遊びにいらしてください(といいつつ今回は予約されたほうが吉だと思います)。
動物大集会 vol.02
「クリエイターとウソとホント」

昨年10月、タワーレコード新宿店10周年記念イベントの一環として企画されながら、松江監督のご家族に不幸があり急遽マッスル坂井単独トークショウ(a.k.a.「クリエイターと音楽」)として開催されたスペシャルイベントが、装いを新たにリターンズ!
映画、AV、ドキュメンタリー、テレビバラエティなど近しいルーツを持ちながら、それぞれオリジナルな表現手段で突っ走るふたりのウソとホントにまみれる一夜。
トークあり、映像あり、サプライズあり(?)でお届けします!!

【日時】
2009年6月8日(月)
OPEN 18:30 / START 19:30

【場所】
阿佐ヶ谷ロフトA(03-5929-3445)
JR中央線阿佐谷駅パールセンター街徒歩2分

【出演】
マッスル坂井(プロレスラー)
松江哲明(ドキュメンタリー作家)


【司会】
九龍ジョー(ライター/編集者)

【料金】
前売¥1,500 / 当日¥2,000(飲食代別)
WEBもしくは電話(03-5929-3445)にて予約受付中!
上記にもあるように、この組み合わせ、前回実現しなかったこれのリターンズ企画となりますが、内容は一新してお届けするつもりです。

ちなみに、昨年のマッスル坂井単独トークショウ(a.k.a.「クリエイターと音楽」)がどんな感じに終わったのかは、ニコ動あたりで(消されてなければ)映像が見られると思いますので、心に余裕のある方はそれっぽい単語で検索などしてみてください。

明日、あさってはオオハシキャノンボール。もちろん全会場回る予定です。楽しみすぎる!!

2009/05/11

ロビーと羽衣とボレロ

◆先日、こまばアゴラ劇場のロビーでやった神里雄大さんと岸井大輔さんとのトーク中の写真がしのぶの演劇レビューにあがっていた。

期間中あのロビーにいた人たち、本棚、空気。もちろんどの作品もすばらしかったのは踏まえた上で、何年かたって「キレなかった14才りたーんず」のことを思い出すとしたら、あのロビーの感じだろうな。

彼らのオープニングパーティのときに「パーティロック」ってことを思って、あながち外れてもいなかったんだけど、でも「パーティ」に収まるだけのものでもなかった。
彼らは「公演」って概念や「暗転」みたいな装置をぜんぜんかったるいなんて思っていなかったし、むしろ、「公演」とか「暗転」に必死に取り組んでいた。
ただ、ひとつ言えるとすれば、「仲がよかった」。自分と異なる考えや価値観や身体に対する「寛容さ」を持っていた。
そのことは「グァラニー ~時間がいっぱい」や「すご、くない。」あたりからも濃厚に感じられたし、「アントン、猫、クリ」にいたっては、物語とまったく無関係な飛行機の音だとか、「人」という文字やコンタクトインプロ的な動きを利用しつつほとんど「物」として「他人」という役割を引き受ける人物まで登場させ、「私のメランコリーと関わりなく、世界はたしかに存在している」という状態をステージ上に描いてみせた。「少年A」に対する「少年B」だってそうだ。

「世界はけっして<私>の拡張ではない」という考え方は、「無関心」を遠ざけ、「寛容さ」を生み出す契機となる。
たとえば岸井さんをロビーに巻き込んだのだって、そうした「寛容さ」があってこそだったんじゃないかと思うのだ。

◆日曜日、FUKAIPRODUCE羽衣「朝霞と夕霞と夜のおやすみ」@こまばアゴラ劇場。
男女の恋愛や性愛を汗だくになって歌って踊って魅せるという、なんとも暑苦しい舞台。でも、こういうのってあがらいがたく、好きなんだよなあ。
歌も踊りもすごく上手いというわけではないんだけども、妙に印象に残るというか(本人たちは「妙ージカル」と呼んでいるらしい)。ゴキブリコンビナートの歌っていつも名曲ぞろいだと思うんですけど(いやホントに)、あれに近いものがあった。
ひたすら楽しく、観終わってなにも残さない芝居。ずばり大好物です。

大根仁さんのブログで、シルヴィ・ギエムの「ボレロ」の動画がYouTubeにあがっているのを知る。一度は封印したはずの「ボレロ」を、2月のベジャール追悼公演で解禁したときのやつ。



映像を観るだけでも熱いものが込みあげてくる。
05年、「最後のボレロ」を観たときの興奮がいまだに忘れられないでいる。

2009/05/10

オオハシキャノンボール

◆DVDにて童貞2号こと梅澤嘉朗監督作品『ライク・ア・ローリングストーン 独立宣言』鑑賞。
ようやく見られた。あのコとの距離がカーナビで可視化されるショット、車イスでギターを叩きつけるショット、素っ裸で許しを請うショットなど鮮烈なイメージが次々に襲ってくる快作。面白れええ。
監督によるモノローグとか、想いの強さだけで時空を超えたりする瞬間に、『ラ・ジュテ』を想起したりも(言いすぎか?)。

◆松竹試写室で映画『色即ぜねれいしょん』試写。
原作・みうらじゅん、監督・田口トモロヲ、脚本・向井康介、出演に渡辺大知(黒猫チェルシー)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、岸田繁(くるり)、リリー・フランキーなど、でもって音楽が大友良英、という盤石すぎる布陣にかえって不安がなきにしもあらずだったのだけど、見事に痛快な青春映画だった。
やはりみうらじゅん原作、田口トモロヲ監督作『アイデン&ティティ』で主人公役を演じた峯田和伸が、ヒゲゴジラという兄貴的ポジションにスライドしているのも感慨深い。優しくかつどこか胡散臭さも残した演技がすばらしい。岸田繁もナチュラルなロック兄ちゃん風情で存在感たっぷり。そして渡辺大知の白い歯をキラッキラッさせた「リアル童貞」っぷり!! ハマッてたなあ。
もう、この作品でもって、「童貞映画は打ち止め」ってことでいいよね。

◆ルノアール兄弟先生のマッスルハウス8感想に、なるほど。
「時間不足やら何やらで想定していたよりタイトにテンポよくできなかったが故に、あのような重苦しいものになってしまったのではないか」。
たしかにオープニング映像に珍しくブロックノイズがちらちら入ってたり、前半、進行が一瞬フリーズする瞬間があったり、そういったなかで定まったテンポを掴むのが難しい空気になってたのも事実で。もし良質なグルーヴをキープした状態でエンディングに突入していたら、たとえ同じスキットでも、よりエンタテインメント性の強いものとして結実していたのかもしれない。

といったことも話すかどうかは定かではないけど、6月8日(月)に阿佐ヶ谷ロフトAで、マッスル坂井さんと松江哲明監督をお迎えしてトークイベントを開催する予定です。詳細は近日中に!

Ongakuto1_2◆その前にこちらのイベントの告知を。
梅澤くんの『ライク・ア・ローリングストーン 独立宣言』をミニコミ『SPOTTED701』にて映画完成に先駆け漫画化していたことでも知られる、西東京の誇るDIY漫画家、大橋裕之先生のメジャー初単行本『音楽と漫画』が5月14日ついに発売となります!
でもって発売を記念して、5月16日(土)と17日(日)の2日間に渡るとんでもないイベントも開催されます!

大橋裕之初単行本『音楽と漫画』発売記念!!
「オオハシキャノンボール2009」(5.16-17)

<開催概要>
ミニマルかつローファイな線で若者の繊細な機微から宇宙の摩訶不思議まで描き出し、いまや映画界、音楽界からも熱い注目を浴びているインディーズ漫画家・大橋裕之。
このたび彼の初メジャー単行本『音楽と漫画』(5月14日発売/太田出版)がついに発売されるのを記念し、5月16日~17日の2日間にわたりスペシャルイベントを開催します!
「走るロック漫画家」との異名も持つ大橋裕之が、お茶の水~高円寺~吉祥寺~中野と各地でイベントを開催しながら、中央線や自転車、徒歩などを駆使して走り抜ける驚異の2日間!
参加者の皆様には各地でのサインはもちろんのこと、スタンプラリーを実施し、3ヵ所以上参加の方には景品もご用意しております。ぜひともふるってご参加ください!!

<スケジュール>
■5月16日(土)■■■■
●14:00~
「大橋裕之とディスクユニオン」(トーク+ライブ)
ディスクユニオン お茶の水駅前店(お茶の水)
ゲスト:前野健太
料金:無料
大橋裕之の盟友ともいえるミュージシャン・前野健太さんがゲストで参加。
トークと前野健太ライブの2本立てでお送りします。

●19:00~
「大橋裕之と円盤」(紙芝居ベスト)
円盤(高円寺)
料金:1000円(カレー付)
「円盤カレー道場」イベントを開催中の円盤におじゃまさせてもらい、紙芝居を披露。
これまで様々なイベントで、毎回新しい紙芝居を披露してきた大橋裕之ですが、この日は過去の作品より選りすぐった名作・珍作揃いの「大橋裕之紙芝居ベスト」をお送りします。
なお、「円盤カレー道場」で出品されるカレーも召し上がることができます。

■5月17日(日)■■■■
●15:00~
「大橋裕之とBASARA BOOKS」(上映+トーク)
武蔵野公会堂 第4会議室(吉祥寺)
http://www.musashino-culture.or.jp/koukaido/access.html
ゲスト:左近洋一郎(ルノアール兄弟)、渡辺ペコ
料金:700円
大橋裕之が監督・脚本を務め、ミュージシャン・前野健太や漫画家「ルノアール兄弟」の原作担当・左近洋一郎などが出演、吉祥寺バサラブックスを舞台に音楽と古本と恋に翻弄されていく若者たちを描いて話題となった自主映画『A・Y・A・K・A』(30分/2008年)を上映。
出演者である左近さんと、漫画家の渡辺ペコさんをお迎えしたトークもお届けします。

●18:00~
「大橋裕之とタコシェ」(似顔絵描き)
タコシェ(中野)
料金:無料
イベントファイナルは大橋裕之の似顔絵屋。来場されたみなさん一人一人の似顔絵を描きます。
先祖や孫、未来の伴侶などのリクエストも可能!!

※各イベントではサイン会も実施します。『音楽と漫画』をお持ちの方、もしくは会場で『音楽と漫画』を購入された方にその場でサインもお入れいたします。
※5月16日のイベントでスタンプラリー用のシートをお配りします。各イベント先でスタンプを押し、3ヵ所以上たまった方には景品を差し上げます。またそれに加えて、4ヵ所すべてに参加された方にはさらなる豪華景品もご用意いたしておりますので、どしどしご参加ください!

さらに、すでにハヤシライス佐藤くんがちょこっと触れてますが、7月20日(月・祝)に「大橋裕之ロックフェスティバル」も開催予定です。
これはちょっとすごいです。なにがどうすごいかについては順次発表されると思いますのでお楽しみに!

Hearphone◆ハヤシライスといえば、ずいぶん経ってしまったけど佐々木敦さんの新雑誌『ヒアホン』に「前野健太とハヤシライスレコード」という記事があって、佐々木さんが、今年初めの「健祭り」で初めて前野健太と遭遇した瞬間が美しくドキュメントされている。
その記事はこんなふうに締めくくられていて、ぼくもまったく同感なのだった。
前野健太の唄やハヤシライスのリリースを聴いていると、ニッポンの音楽もまだまだ全然捨てたもんじゃないよな、と素直に思える。それは今の僕にとっては、他の何にも換え難いほど価値のある、希望の感覚なのだ。
パンダ・ベアことノア・レノックスの見た風景を幻視する福田さんの記事、「アニマル・コレクティヴ物語」も面白かった。彼らがどこからやって来たのかを、耳元でささやく内緒話のような。

『スウィート・ドリームス』の第3号ももうすぐみたいで、楽しみです。

2009/05/07

プロレスキャノンボール

連休終わるな。あっという間。

◆2日、行きつけの飲み屋で誘ってもらい、地元の市民センターグランドでフットサル。2年ぶりぐらいか。
男女混合の15人、ほぼ同世代。チーム分けもプレイスタイルもみな大人力に溢れて心地よい……はずだったんだけど、最初の5分ぐらいで体力ゲージを使いはたし、残りの時間はだましだまし。運動不足やばいなあ。
打ち上げの酒が旨い。ついウトウトしてしまう。
ご近所さんたちと家路を歩いていたら、Kくんから電話。
清志郎死んじゃったって。

Rcきみがぼくを知ってる。ぼくらは薄着で笑っちゃう。一番ヴィヴィッドだったのは『GLAD ALL OVER』。ゴキゲンてのを覚えて。『十年ゴム消し』。30周年記念ライブ@武道館でチャボが「いい事ばかりはありゃしない」を歌ったあとに清志郎を呼び込む。日本が生んだ偉大なるソウルメン! フロム中央線、国立! 三輪二郎がMCやるときよく真似てて、ついこないだもあだち麗三郎をあの口上で呼び込んでた。
「日本が生んだ偉大なソウルメン! 日本が生んだ偉大なソングライター! Keep On Rock’n Roll! 最高のヴォーカリスト! フロム中央線! 国立! 忌野! Sweet Soul! 清志郎!」
ずっと熱心に聴いていたわけではないのに、いなくなってこんなに寂しいひともそうはいない。

◆3日、シティボーイズミックスPRESENTS「そこで黄金のキッス」@新国立劇場・中劇場。
グループ結成30年、シティボーイズ・ライブを始めて20年という節目にもかかわらず、メモリアル的な要素は一切なし。ただひたすらにナンセンス。「思想のない芝居よりも、粗相のないコントを」(斉木しげる)キープしつつづける姿勢にシビれる。
しかしきたろうさんはホント自由だなあ。

◆4日、打ち合わせ&撮影仕事を終え、後楽園ホールへ。「マッスル・ハウス8」観戦。
詳細はこちらにて。

いよいよくるところまできたなーと。「これからのマッスルはどうするべきか」をお客さんにその場で投票させた上に、最後はリング上のレスラーと観客がカラーボールを投げ合っちゃうのだ。絵に描いたよな「迷走」というか。
でも、それすら面白く思えてしまうのはなんなのだろう。自分の見方がかなり偏っているのは重々承知の上で、だってあんな光景見たことないよ。「14歳の国」どころの騒ぎじゃないよ。
作家主義の作品として見てしまっている以上、なにが起きても、一段階引いたところで創作をめぐるドキュメンタリーとして興味深く見ることができてしまう。
プロレスとパチンコのかかわりに、単なる暇つぶしや、スポンサード以上の妙味を見いだしてしまう。

それがエンタテインメントとしてよいのかわるいのかはわからない。高木さんの書いていることももっともだと思うし。
ただ、これでいよいよマッスルから目を離せなくなってしまった。これからどうなってしまうんだろう。まったく残酷なファンだよ。

Mcannonball会場でDVD『プロレスキャノンボール2009』を購入。元ネタそっくりの裏ジャケ(→)にニヤニヤしてたら、オープニング映像までもろパクリ。
おまけに内容の面白さ、感動ポイントまで肉迫してるという、すばらしき作品なのであった。
ディーノの両国への決意、平日昼の大阪プロレスのいなたさ、メイドのアリスちゃんのかわゆさをはじめ、全編にわたって堪能。

◆5日、アゴラ劇場のロビーで、岸井大輔さんと、『グァラニー ~時間がいっぱい』の最終公演を終えた神里雄大くんと話す。
『グァラニー ~時間がいっぱい』のことや神里くん自身について丁寧に聞こうと思っていて、実際にそうした。岸井さんも同じ気持ちだったんじゃないかと思う。
とても楽しく、最後はちょっとせつなくなってしまった。
岡崎藝術座の今後の作品がとても楽しみ。

そういえば岡崎藝術座の過去公演には、マッスルやDDTのリングで大活躍しているアントーニオ本多選手が何回か出てて、その関係で、今回の初日も本多選手が観にきてたらしい。ニアミスしてました。

2009/05/02

「思い出す」を思い知る

風邪がなかなか抜けなくて(豚インフルエンザぢゃないよ)夜うーうーうなったりしながら、ドラクエ5をようやくクリア。解放治療の夜。こりゃ9が待ち遠しいやら、気が重いやら複雑だわ。

◆火曜日、「すご、くない。」(振付・構成・演出:白神ももこ、「キレなかった14才りたーんず」参加作品)@こまばアゴラ劇場。
ダンサーたちの踊れなさかげんや、それぞれの身体のちょっとおかしな部分や過剰な部分を、とってもファニーに変換して見せるマジカルなステージ。すばらしかった。
その手つきや「あったかい」感じは、意外にも先日のジャンさんイベントに通じるものがあった。というか、ジャンさんの面白さは「すご、くない」なんだよ。だから、「すご、くない」を面白いと思うひとはジャン相見という芸人の旨みをすぐ味わえるだろうし(なかなか難しいことですよそれは)、その逆もしかり。

これで「キレなかった14才りたーんず」ついに6作品ぜんぶを観たことに。興行としてもちょうど中日にあたるらしく、ポストパフォーマンストークは演出家6人そろっての中間総括モード。
「14才の国」ではついに拍手が起きなかった回があったらしい。いい話だ。神聖喜劇。だんだん山崎皓司が東堂太郎に見えてきたよ――この戦争は負ける。そして一兵士として、「私は、この戦争に死すべきである」。
ずっとなにかに似ていると思ったら、プロレスの試合中に写真をとっているあれ(左上の矢印でいろいろ入れ替えられる)だった。あれも、観客の反応はかなり薄かったという。
杉原版「14才の国」や、マッスルのもたらすある種の「しらじらしさ」は、けっしてぼくらに陶酔することを許さない。ひたすら覚醒をうながすのみである。

そういえば「すご、くない」ではゆらゆら帝国が効果的に使われてて、やはり陶酔を許してくれないのだった。覚醒をうながすロックンロール。いや陶酔しながら、同時に覚醒もしているような。能動的に受動的。ソフトに死んでいる、ファニーなゾンビたち。

りたーんずについては、改めて5月5日に「マクアイマッタリロビーキカク」の一環で、岸井大輔さんと神里雄大さんとおしゃべりをする予定です。17時30分頃からの予定です。よかったらのぞいてみてください。

◆水曜日、「風のうたが聴こえるかい? vol.4」@四谷区民センター10F音楽室。
りたーんずの連中ともほぼ同世代であるあだち麗三郎くん(83年生まれ)の企画ライブ。出演は鳩山浩二、真っ黒毛ぼっくす、あだち麗三郎。

とにかく四谷区民センターの音楽室ってのがやばい。まずはRyuちゃんの写真を見たってください。東京の演奏のバックに東京の夜景。なんだこの奇跡的なシチュエーションは。どあたまからワインでしこたま酔ってしまう。

鳩山浩二。前から観たかったいかしたブルースマン。「鳩山ブギ」「鳩山トレイン」って楽しすぎるよ。名前だけは覚えて帰ってね。でも「くらげ」ってバラードなんていつFMラジオから流れてきてもおかしくない名曲。あだちくん(ドラム)やMC.sirafu(ピアニカ)のサポートも心地よし。

真黒毛ぼっくす。大好きな、いわゆる「大気」を感じるバンド。それほど広くない音楽室なもので、バンドの空気のなかに抱かれて震えたなあ。サポートギタリストに三輪二郎。大槻さんの歌う「出不精のバラッド」がパブロック風でかっこよかった。

あだち麗三郎。夜の東京に流れ出ていくうたはとてもたいせつな呪文のようで、あだちくんは魔法使いなんじゃないかと思う、と書いたそばからでもいたって自然だしねえと。不思議なひとだ。素敵な音楽をありがとう。

とてもいい夜だった。前から言われてたんだけど、この日も会うひと、会うひとがMC.sirafuも参加する「片想い」というバンドを観ろと言う。「九龍さんはぜったい好きなはずだから」と。

YouTubeでちょっと見てみる。



たしかにこれはやばい!(ヨ・ラ・テンゴみたいなダンスも!)

◆金曜日、小田島等×タナカカツキ×佐藤直樹トーク「ビバ!1980年代のポップ・イラストレーション!!」@青山ブックセンター本店。
Pop1980小田島等さんと佐藤直樹さんと前田和彦くんの労作『1980年代のポップ・イラストレーション』(これホントすばらしい本!)の刊行記念イベント。
小田島さんやカツキさんが80年代のポップ・イラストからどう影響を受けたかという時代性の話も興味深いんだけど、鈴木英人や空山基みたいな、強烈に時代を感じさせるのに、むしろイキきってるがゆえにいまだ現役感のあるひとたちの話がまた面白い。

で、まったく忘れてたんだけど、昔、ちょっと働いていた編プロの仕事で、月に一度、逗子の鈴木英人さんの仕事場に通っていたことがあったのだった。英人ファンクラブの会員用特典映像の撮影。英人さんが僕のDVカメラの前で自らの半生を語るっていう。
いやー忘れてたわー。思い出したなあ。久々に「思い出す」ってことを思い知ったよ。