2009/08/29

SPOTTED PRODUCTIONSについて

なんの因果か受験生ばりに英語漬けの毎日。予習復習予習復習。

近過去のことばかり書いているけど、このぐらいの距離感がちょうどよい(ということをTwitterをやって痛感)。
前の日記で触れた前野健太@コクテイルよりちょっとさかのぼり、8月20日はナヲイさんの発行するミニコミ「SPOTTED701」の創刊2周年イベント@阿佐ヶ谷ロフトAだった。
トークあり、寸劇あり、音楽ありといろいろ詰め込みつつ、絶妙なゆるさが心地よかった。あれホント絶妙なんだよなー。いい塩梅ってやつ。「SPOTTED701」というミニコミの感じがまさにそうだもん。

Spo11しかし「SPOTTED701」、もう11号だって。ぼくもたまに原稿を書かせてもらっているが、あの質量をキープしつつ2年で11冊出すミニコミもそうはないと思うよ。

昨年6月、たしか5号が出たあたりの頃、SPOTTED PRODUCTIONS=ナヲイさんについて雑誌に原稿を書いたことがあるので、記念に転載しておきます。

SPOTTED PRODUCTIONSについて
文・九龍ジョー

直井卓俊によるSPOTTED PRODUCTIONSはたったひとりの企画・配給プロダクションだ。
昨年インディーズ映画の枠を超える話題を巻き起こし、いまだ全国各地での上映が続く松江哲明監督『童貞。をプロデュース』を配給したり、すでに第5回を数えるピンク映画の特集上映『R18 LOVE CINEMA SHOWCASE』を開催し、普段ピンク映画を観ないような若い人、とりわけ若い女性たちに映画館に足を運ばせたり。最近はそれらの展開と連動して『Spotted701』なるミニコミも創刊。
とにかく日本映画界の突端でガシガシ動き回っている人、それが直井さんおよびSPOTTED PRODUCTIONSなのである。
なお直井さんとSPOTTED PRODUCTIONSの関係は本人曰く「J・マスシス+ザ・フォグみたいなもの」とのこと。ずばりグランジ世代なのだ。

ぼくもかつて映画イベントを企画し、SPOTTED PRODUCTIONSに協力してもらったことがある。いましろたかしの傑作怪獣漫画『デメキング 完結版』の出版記念イベント。
初めて顔を合わせた中野の喫茶店で、イベントでの上映作品についていまおかしんじ監督版『デメキング』以外のアイデアを持っていなかったぼくに、直井さんが即座に言った。「同時上映は『グエムル』しかないですよ」。『グエムル』なんてムリなんじゃないか? と思いながらも、この人は興行というものが分かっていると直感した。しかも、実際に直井さんは手際よく『グエムル』のフィルムを手配してくれ、イベントは大成功で終えることができた。

直井さんの経歴について、ちょっと触れておこう。
90年代の終わり頃は下北沢のフリーターだった。古本屋「D0RAMA」やロックバーでバイトをして食いつないでいた。松田優作のツアーパンフをD0RAMAで100円で仕入れ、ヤフオクで売ったら12000円になった。映画は普通に好きだった。
2000年、アップリンクに補欠採用で入社。初めて自分で手がけたイベントが「ニッポンエロティックス・フィルム・アーカイブス」。ピンク映画でピンク四天王と呼ばれる監督たち(佐藤寿保、サトウトシキ、瀬々敬久、佐野和宏)の作品を上映した。
「もともとロマンポルノは見ていたんですけど、ピンクは四天王の存在すらよく分かっていなかった。でもイベントに意外にも若い女の子が大勢集まり、列までできたりして、潜在的な観客がいるんだなって思いましたね」(直井)

じつは四天王は「カッコよすぎて」いまいちピンとこなかった直井さんだが、いろいろとピンク映画を観ていくうちに、ひとりの監督にハマってしまった。
監督の名は、いまおかしんじ。
「いまおかさんの初期の『彗星まち』とか『イボイボ』とか『デメキング』、あのへんの作品を観てみたら、日常と非日常が地続きで繋がっていて、しかも出てくる男たちがみんな情けなくて(笑)。さすがに今はもうちょっと冷静に見ているんですけど、当時は完全に心酔していて、観るたびに涙目になってましたね」(直井)
2004年、アップリンクを退社。フリーとなりSPOTTED PRODUCTIONSを起ち上げた今も、いまおかしんじ作品は新作ができるたびに配給を手がけている。いったん「この人なら」と見込んだ監督への惚れ込みようはハンパないのだ。

奇才・井口昇監督とも長いつきあいになる。
「井口作品との出会いは、それまで持っていた価値観をひっくり返されるくらい衝撃的だったんですよ。アップリンク時代に『恋する幼虫』をどうしてもソフト化したくて、ゆうばり(国際ファンタスティック映画祭)まで追っかけましたから。けっきょく権利は他社に行ってしまったんですけど、それがきっかけで過去の作品のソフト化をやらせてもらったりして、それからずっとおつきあいさせてもらっています」(直井)
8月2日より公開される井口監督によるアメリカ資本(!)の復讐アクション映画『片腕マシンガール』も、もちろん配給はSPOTTED PRODUCTIONSである。

とにかくまず「人間に惚れる」こと。プロジェクト主義ではなく、かといって作品至上主義でもない。まず監督の才能に、人柄に、その可能性に惚れ込む。それでいて、プロデューサーとしてきちんと数字を見ることもできるところに直井さんの本領がある。
「自分がどんなに面白いと思っても、一般性というか、広がりがないと思ったらやらないです。といってもほとんど直感なんですけど。ただ、一度やるとなったら、絶対に支え続けます。例えば冨永昌敬監督の『シャーリー・テンプル・ジャポン』のときに情報がほとんど載っていない謎のチラシを作ったんですよ。三角形の壁画みたいなデザインで。ぱっと見、お客さんにやさしくないチラシなんですよ(笑)。でも、シリーズ化するに当たっても、まずそういった遊びをどうやったら続けていけるのかを考えるんです」

その三角デザインの映画『シャーリー・テンプル・ジャポン』を撮った冨永監督はあるイベントで「あとふたりぐらい直井くんがいてくれたら、日本映画界もすいぶん状況がよくなるのに」と発言していた。
日本映画界の状況はともかく、会うたびにいつも思うのは、直井さんの尋常じゃないハードワークっぷりである。とにかく替えのきかない人なのだ。その多岐にわたる活動のとりあえずの現状報告は、そのつどミニコミ「SPOTTED701」最新号で確認することができる。異常な刊行ペースなんだよ、これがまた。

(初出:「Quick Japan」2008年6月号)

そう、原稿を書いたのはちょうど『片腕マシンガール』が公開される前のことだった。その後、映画は大ヒット。
でもって現在は、『片腕マシンガール』の方向性をさらにエクストリームに追求しつつ、一大エンタテイメントに仕立てあげてしまった井口昇監督の最新作『ロボゲイシャ』が近日(10月3日)公開予定である。「ギリギリ・デートに使える映画」というのがウリらしいけど、試写で観たら、「ガンガン・デートに使える映画」だったよ!(まあオイラが「デート」いうてもぜんぜん説得力ないけどな)

同じ歳の直井さんとは、おこがましい話ではあるけれど、会ったときから感ずるところがあった。原稿にもちょろっと書いたけど、心のどこか片隅でいつもこんな音が鳴ってるもんね。