2008/12/17

マッスル座談会

またずいぶんと間があいてしまったので、いろいろ書き付けておきたいこともあるのですが、ひとまずそれはおいといて――。

いま売ってる雑誌「SPA!」で、写真家の石川直樹さん(祝・開高健ノンフィクション賞受賞)のロングインタビューをやっております。字数ギリギリまで詰め込みました。チェックしていただければ幸いです。

それから、やはりいま売ってる雑誌「BUBKA」で、マッスル坂井さんのロングインタビューもやってます。
マッスルおよびマッスル坂井を知らない読者に向けてのものなので、わりとオーソドックスなインタビューではありますが、こちらもよろしかったらぜひ!

で、いい機会なので、以前、「Quick Japan」でやったマッスル特集の際の原稿と座談会を(参加者の方たちに許可をいただいたので)アップしておきます。ちなみに特集ではこれらの原稿以外に、「マッスルハウス6」誌上レポートと、マッスルヒストリー全解説もセットでした。
「BUBKA」のマッスル坂井インタビューとあわせて読んでいただければ幸いです!

踏み越えるプロレス――マッスルの現在形
文=九龍ジョー

2年半ぶりのマッスル特集となる。
おさらいをすると、マッスルとはDDTプロレスリングの所属レスラー・マッスル坂井が代表をつとめる実験的プロレス興行のことだ。
プロレス、といってもいわゆる普通のプロレスではない。試合が途中でスローモーションになったり、しゃべり場になったり、笑点の大喜利になったりする。選手にドッキリをしかけたりもする。
しかし、マッスルを紹介するのに、そのような過去のアイデアを挙げていくことはもはや有効ではない。1年半前の時点では革新的だったこれらの試みも、今やプロレスのリング上でそれほど珍しいことではなくなってきた。マッスルが切り開いた地平に、続々と入植者が現れたというわけだ。その是非についてはここでは問わない。プロレス専門誌ではないので。
肝心のマッスルはといえば、むしろプロレスそのもの(ようするにリング上でちゃんとプロレスをすること)に向き合うことで、一度築いたマッスルの世界を仕切り直そうとする1年半だったような気がする。

ずばり、マッスル坂井にとって「プロレス」とは、ドキュメンタリー作家・原一男にとっての「キャメラ」がそうであるように、あらゆる壁を、距離を、ボーダーを、遠慮なく踏み越え、挑発し、生身の人間がまとう「劇的なるもの」を最大限に引き出すための武器なのだと思う。あるいはそのための装置。
あるときは演劇的と言われ、またあるときはドキュメンタリー的と言われたりするのも不思議なことではない。むしろ、優れた演劇や優れたドキュメンタリー、さらには優れたバラエティ番組がそうであるように、マッスルもまた、それらと種を同じくする「面白さ」や「スリリングさ」を共有しているからだ。
その種とは、たとえばこんな「二重性」のことだ――。

「舞台の上できみが見る死体(もちろん、もっとも有名な例は『ハムレット』の終幕だ)、舞台上で見るあらゆる死体はみな息をしている。もしそれが本当に素晴らしい『ハムレット』なら、観客は涙を流すだろう。役者たちは当然死んでいないと理解しているのだからおかしなことだが、それでもひとは揺さぶられて涙を流させられる。観客は世界を批評的に見させられるんだ。……『エンジェルス・イン・アメリカ』の映画版で、製作者たちがワイヤーをデジタル処理で除去しようとしたとき、僕たちは大論争をした。なにしろワイヤーこそが重要なんだ。公演日程の終わりごろには、引き具に吊された不幸な女優の背中は壊れそうになっている。でも、もしそれがほんとうにすごい芝居であれば、見ている人はそれがリアルじゃないと知りつつ、超自然的で魔術的な何かを見ている感じをもつ。この二重性――それこそが、生を理解し、生に到達するための唯一の方法なんだ」
(トニー・クシュナー/劇作家)

とにかくマッスルついてまだまだ多くの人に知ってほしいと思う。
今、こんなにも切実で、面白く、「なんだかよくわからないもの」もそうはないから。


■マッスル・プレゼン座談会
「マッスルについて考えることは喜びである」


【出席者】
マッスル坂井(プロレスラー、マッスル主宰)
松江哲明(ドキュメンタリー作家)
左近洋一郎(漫画家、ルノアール兄弟・原作担当)
上田優作(漫画家、ルノアール兄弟・作画担当)
【司会・構成】
九龍ジョー

――マッスルは一度、「Quick Japan」で特集していて、そのあともマッスル坂井さんには対談に登場してもらったり、原稿を書いてもらったりしているわけですが、いまだにどうもマッスルってなんなのか読者に伝わっていない気がするんです。
坂井 なるほど(笑)。
――けっきょくマッスルって幅広い切り口があるがゆえに、なかなかその実体を伝えるのが難しい。と同時に、その幅の広さ自体がまたマッスルの魅力でもある。なので、今回は例えば「内村さまぁ~ず」とかを目あてに「Quick Japan」を手にとってしまった読者の方々にもアピールするようなかたちでマッスルの魅力をプレゼンしてみたいと思うんです。
坂井 よろしくお願いします!

●「あるある」よりも「ないない」が面白い

――というわけで、まずはドキュメンタリー作家の松江哲明さんにマッスルにはまったきっかけから聞いてみたいなと。
松江 僕はあれですね、「Quick Japan」の前回のマッスル特集で森(達也)さんが「マッスルは面白い」って言ってたじゃないですか。森さんって今でこそ立派な文化人みたいにとられてますけど、もともとは「電波少年」みたいなバラエティ番組が大好きな人なんですよ。で、久しぶりにそういうモードの森さんだったので、このマッスルっていうのは相当面白いんだろうなと思ったんです。それですぐに後楽園ホールで「マッスルハウス4」を観戦して……もう完全に嫉妬ですよ。悔しくて。まず面白かったし、しかも方法論が僕と似ていたんです。森さんも指摘しているように「ドキュメンタリー」をうまく利用しているってところで。しかもナマじゃないですか。仕掛けたっぷりのフェイク・ドキュメンタリーを、観客まで巻き込んでやっちゃうっていう。びっくりしましたよ。僕はプロレスはほとんど見ないんですけど、昔ちょっとテレビでWWE(アメリカのエンタメ・プロレス団体)を見たことがあって、でも、それとも全然違っていた。
――マッスルの場合、坂井さん個人の作家性が前面に出てきますからね。
松江 そうなんですよ。WWEの場合は、演出家よりもプロデューサーありきって感じがしますね。ハリウッド的というか、観客のほうを向きすぎている気がしました。
坂井 WWEは「エンタの神様」っぽいんですよ。あの番組によく出てくる「あるあるネタ」って、ギャグは芸人の口から発せられた瞬間に視聴者のものになるっていう、言ってみれば商業音楽的な発想じゃないですか。ギャグが、受けとられた時点で「ああ、俺にも身に覚えがある」っていうふうに観る側のものになってしまうっていうのが「あるあるネタ」だと思うんです。サラリーマンのお父さんにとっての「スーダラ節」みたいなもんですよ。「あ、俺のことだ」って。
松江 それってようするに「共感」っていうことだと思うんですけど、僕はその「共感」って言葉が大っ嫌いなんです。受け手に「共感してもらいたい」なんて言ってる表現者はものすごく志が低いなと思ってしまう。
坂井 「あるあるソング」(=リスナーの共感をアテにした曲)ってたいてい安易なバラードだったりしますからね。だったら、僕は「ないない」のほうが好きです。
松江 「ないない」のほうが作家性がありますからね。
坂井 あるいは間違った「あるある」でもいいと思う。「あるある」ってふれこみなのに、聞いてみたらみんなキョトンみたいな。「ないない(笑)」って。それが一番面白いですよ。松江監督の『童貞。をプロデュース』だってそうじゃないですか。「童貞」ってネタとしては「あるある」なんですよ。でもフタを開けてみたら、「こんなに古本とかゴミを漁って集めてるやつなんていないよ」って(笑)。
――たしかに、『童貞。』は「あるある」とみせかけた「ないない」ですよね。

●「わからないこと」をやる

――ルノアール兄弟の原作担当こと左近さんはマッスルとの出会いは?
左近 僕は「マッスルハウス3」のときに観戦漫画を描かせたもらったのが最初です。そもそもプロレス自体をちゃんと観るのが初めてだったので、その熱量というか、高カロリーなところに圧倒されてしまって。ちょうど自分自身、漫画家として、マヨネーズがけみたいな「こってり感」が必要なんじゃないかと思っていた時期だったので、すごくマッチしたんですよ。あと、レスラーのキャラクターを立てる感じが漫画のやり方にも通じるものがあり、その一方で松江さんも指摘したドキュメンタリーの要素もあって。その両方が同時に成立しているっていうのが、すごく魅力的でした。
――作画担当こと上田さんはどうですか?
上田 僕も左近と同じ「マッスルハウス3」から観て、すごく衝撃を受けたんですけど、その次の「マッスルハウス4」でさらに驚かされたんです。「4」からスローモーションの使い方が変わるんですよね。
――スローモーションが効かないっていうシチュエーションが出てきますね。
坂井 「4」は自分のなかで、なんかシフトチェンジがありましたね。ソフトでいうと「ドラクエV」っていうか、ハードがファミコンからスーパーファミコンに変わったような感じがありました。
――松江さんはお気に入りの回がありますか?
松江 僕は「マッスルハウス5」ですね。あんなに泣いたのは久しぶりでした。じつは、事前に僕のインタビュー本(『童貞。をプロファイル』)の取材で坂井さんにインタビューしたときに726選手の奥さんが亡くなったことを聞いていたんです。ドキュメンタリーって、もちろん「演出」とか「嘘」もあったりするんですけど、現実の人を扱っている以上、その人のプライベートも含めて作品に映ってしまうんです。だから、そういう人が急にこの世からいなくなっちゃうっていうのはものすごくショックだったと思うんですよ。それが分かっているから、僕には「作品に昇華したらいいんですよ」なんてことは絶対に言えなかった。当日になっても、坂井さんが726選手の奥さんの死をマッスルの作品として昇華するっていうことは、僕の念頭にはまったくなかったんです。だから、目の前で726選手のくだりが始まった瞬間、「うわっ、やっちゃった!」っていうのがあって。それがどう決着するのかっていうことよりも、まずその「やっちゃった!」っていうことが「すごい!」と。いいとか悪いとか、正しいとか間違ってるとかじゃなく、今はこのやり方しかできないっていうものを、まざまざと、しかもナマで見せつけられたっていうのが衝撃で、もう涙が止まらなくなってしまったんです。
坂井 あのときは自分でもどうなるかわからなかったですからね。
松江 プロレスだからこそっていうのも思いましたね。鈴木みのる選手と高山(善廣)選手っていうものすごく強いレスラーたちが726選手の前に立ちはだかるじゃないですか。そこが誠実だなって思ったんです。ネタじゃなくて、ちゃんと「プロレス」っていう表現の上で闘ってるじゃないですか。
上田 僕も現場で観ていて、あれがほとんど神話の世界に見えたんですよ。小さな若者があんな恐い大男たちと闘わなきゃいけないっていう試練。こんな不条理ないよなって思ったんです。でも、よくよく考えてみたら、それを見ている僕たちだって変わらないんですよ。「人が死ぬ」っていうことも含めて現実は不条理に満ちていて、726があんな鬼みたいな人たちと闘わなければいけないのと、みんな同じなんじゃないかって。
――あの回はたしかに衝撃的でした。「わからないこと」をわからないままにやっている。それはすごいことですよ。ただ、お客さんの間では賛否両論だったらしいですね。
坂井 まあ、ああいうものを求めていないお客さんはいますよね。かなり強い口調で「マッスルにそんなものは求めてない」「エンタメとして失格」「考え直すべきだ」みたいなことを言う人もいて。
上田 最近はそういう人が多いんですかね? 自分の思った通りにならないとすぐ文句を言うような。
――モンスター・ペアレンツならぬ、モンスター・オーディエンス。世の中的にも、ああいう誰にも答えの出せない「よくわからないこと」への耐性はどんどん弱くなってる気はしますね。
松江 ちょうどこないだある雑誌の編集者が言ってたんですけど、最近のアンケートはがきで多いのが、「面白かった記事」は自分の知ってることが書いてある記事で、「つまらなかった記事」は自分の知らないことが書いてある記事っていう。自分の知らないことに興味を持たないだけならまだしも、それを「つまらない」と切り捨ててしまう。
――雑誌編集者の実感として、どこの雑誌でもその傾向はあるような気がしますね。
松江 例えば、いまここで僕たちがマッスルについて語っているのも、ようするに知らない人に面白さを伝えるためなわけですけど、あらかじめマッスルを知っている人しか読んでくれないんだとしたら意味がなくなってしまうわけですよね……。
――その通りですよ(笑)。でも、やるんですよ。

●レンタル世代とチャプター世代

松江 そうだ、坂井さんってレンタルビデオとかよく借りていました?
坂井 学生のときはよく借りていましたね。
松江 僕、マッスルを初めて見たときに「レンタルビデオっぽいな」って思ったんですよ。さっき左近さんが言ったように、マッスルっていろんなものがミックスされてるじゃないですか。僕らより上の世代は名画座とかで強制的に2本立て、3本立て映画を見てた世代。僕らの時代になるとそういう映画館も少なくなってきて、レンタルビデオでAVもスピルバーグも『エヴァンゲリオン』も一緒に借りてくるみたいな感じじゃないですか。そうすると『エヴァ』を見たあとに黒澤映画を見たりとかする。過去も、現在も、アニメも、映画も、AVも関係なく、いろんなジャンルの作品を一緒に見ますよね。僕がつくる作品はあの感じを意識してるんですよ。いろんなものがミックスされた感じ。マッスルも漫画ネタとか完全に同世代だと思うんですけど、その漫画ネタのミックスの仕方そのものが同世代だなって思ったんです。
坂井 その感じはかなりよくわかりますね。
松江 それが僕らより下の世代になると、もっとDVDっぽくなっちゃうのかなって。チャプター向きというか、見せ場しかないみたいな。『マトリックス2』を観たときにそう思ったんですよ。2時間の映画じゃなくて、10分の見せ場がたくさん入ってる映画っていうか。チャプターで見るのにちょうどいい。
坂井 「レッドカーペット」みたいなものですよね。
――「レッドカーペット」はいつどこから見てもいいですからね。
坂井 「マッスルハウス6」の前半で「レッドカーペット」っぽいことをやったわけですけど、現場で1時間もあんなのが続いて、「ちょっとこれは長いかも」とも思ったんですけど、編集するためにモニターで見たら、全然見れてしまうんですよ。逆にみんな面白く見えてきて、むしろなんかムカついてきて(笑)。
松江 そうなんですよね、あの見せ方だと意外と見れちゃうんですよね。
坂井 我ながら怖かった。おいしいところだけを集めるやり方だと、意外と見れてしまうんだって。これはよくないぞ、と。
松江 あの「マッスル版レッドカーペット」に出場した選手数、45人って聞きましたけど、本当は40人の場合と45人の場合でちゃんと差が出なきゃいけないと思うんです。
坂井 それが、編集の段階で1人切って(編集でカットして)も、2人切っても、変わらなかったですからね。
松江 そこが怖いんですよ。AVでも「ぶっかけもの」をやるときに、汁男優の人数が100人と120人とじゃ、ちゃんと違いがなきゃいけないんですよ、本当は。でも、今はだんだん麻痺しちゃって、たんに数が多ければいいってことになっちゃってる。
上田 20人だって、精子の数にしたら相当な数ですよ。
――億兆どころの騒ぎじゃないですね(笑)。
坂井 そもそも本来からしたら、「レッドカーペット」をやったあの前半部は間違い企画であるべきなんです。プロレスでフィギュア・スケートをやってみました、でも失敗しました。笑点みたいな大喜利をやってみました、失敗しました。そうやって、常に前半部でフラストレーションを貯めておいて、後半部のラストで爆発させるみたいなことをやってきたんですけど、「マッスルハウス6」に関しては、前半部の企画(「レッドカーペット」)がわりとそれはそれで見れてしまう、みたいな。
松江 そうなんですよ、あれはあれで面白いのは否定できない。だから、マッスルは、テレビのバラエティ番組とかを意識していくなかで、一度はああいうチャプター的な見せ方に向かう必要があったと思うんです。ただ、坂井さん自身はあれのヤバさに気づいているわけで、じゃあここからどうするかですよね。

●ナマで見る「めちゃイケ」

――バラエティ番組といえば、松江さんはよくマッスルを「ナマで見る『めちゃイケ』」って喩えますよね。
松江 よく「マッスルって何なの?」って聞かれるんですけど、プロレスって言っても伝わらないんですよ。僕自身もプロレスがわかっているわけじゃないし。だから一番わかりやすいのは、「ナマで見る『めちゃイケ』だよ」って。そうするとみんな「面白そうじゃん!」って。
――そこで言う「めちゃイケ」っていうのはどういうイメージなんですか。
松江 場合によっては坂井さんも仕置き人として出演している「色とり忍者」だったりもするんですけど、一番大きいのは、2時間スペシャルでやる大仕掛けの「濱口ドッキリ」とかですね。
――マッスルハウス2」は完全に「濱口ドッキリ」でしたもんね。しかも、観客も仕掛け人を演じさせられるっていう。
坂井 あれは僕のなかでもかなり理想形に近い興行でしたね。
――あんな体験は、テレビ番組でも演劇でも味わえないと思うんですよ。
松江 お笑いライブでもできない。僕はあれをDVDで見たんですけど、あの場にいられなかったのが本当に悔しくてしょうがなかったです。あれですよ、僕、ワールドカップとか全然興味ないんですけど、スタジアムで青いユニフォームを着てサッカーを観るのが好きな人たちっているじゃないですか。ああいうノリの人がマッスルを見たら、絶対に面白がると思うんですよ。
――あとはもっと女性が観にくるようになるといいと思うんですよね。プロレスっていうだけで男の子のものだと思われてしまう。その点、松江さんの『童貞。』なんかは、劇場の女子率がずいぶん高かったですよね。
松江 今の若い世代は女子のほうが行動力がある気がしますね。
坂井 いっそこの対談も、左近さんが女性っていう設定にしましょうよ。会話も全部、女言葉にして、名前も「左近洋子」ってことで(笑)。
左近 そのほうが読者が入りやすいのであれば異存はないです(笑)。
――そういえば、ちょうど漫画家の大橋裕之さんがこのあいだ初めてマッスルを観たんですけど、大橋さんが驚いていたのが、1回の興行で1つのストーリーを消化してしまうってことだったんですよね。毎回イチからアイデアを組み立ててるって聞いて、驚いてました。
松江 それは僕も思ってました。なんでマッスルって、次につなげていかないんだろうって。最後に他団体のレスラーが殴り込んできて、「次は何月何日にどこそこで決着つけるぞ」みたいなのが、わりとプロレスのお約束なんじゃないですか? なのにマッスルって、1回1回ちゃんと終わらせて、「ありがとうございました」って挨拶までしてる(笑)。
坂井 そもそも、本来なら3回くらいに分けてやるべきことを1回にまとめてやってるから、面白くなってるだけなのかもしれない(笑)。本当は10時間かかることを3時間でやったりするから、どうしてもちょっとした不条理とか、矛盾が起きてきたりして、そこがギャグになるんですよ。
松江 ありえないことをしようとするから、当然ミスも起きますよね。でも、そのミスも狙っているわけですか?
坂井 まさにそうです。そこを笑いにしたいんですよ。
松江 やっぱり。それはすごいことですよ。例えば、一方で、プロフェッショナルを追求してミスを排除していくっていう方向性もありますよね。でも、マッスルってわざとミスが起きるような状況をつくっているのかなって気がしてたんですよ。
左近 そこがやはりドキュメンタリー的な面白さなんですよね。
松江 でも、これは活字になると伝わりづらいんだろうなあ。失敗することの面白さとか、ミスを誘発させる面白さっていうのは。
――そこなんですよ。例えば、以前「Quick Japan」でマッコイ斉藤さんと坂井さんにお笑いDVDにおけるフェイク・ドキュメンタリーの面白さについて話してもらったんですけど、あの空気感を説明するのがなかなか難しくて。へたに丁寧に説明してしまうと、「それってヤラセでしょ」の一言で済まされてしまう。
松江 たしかに森さんとかが単行本でさんざん「ドキュメンタリーというのは主観的表現だ」って書いても、『靖国 YASUKUNI』騒動とか見てると、いまだにドキュメンタリーの客観性がどうのこうのって議論になっている。テレビ東京で「ドキュメンタリーは嘘をつく」(森達也主演によるドキュメンタリー啓蒙番組。松江は編集を担当)を放送したときも、「嘘をつく」って言ってるのに、「でもホントなんでしょ?」っていうことを言われたりして。つくづく作品単体でそのことを伝えるのは難しいんだなって思いました。結局、視聴者なり観客なりが自分でフィードバックしてくれないとダメなんですよね。だから一番よかった感想は、「『ドキュ嘘』を見たあとにニュース番組を見たら、なんか今までとまったく違ったものに見えました」っていう。
――マッスルも、一度観たら、他のプロレスの見方が変わりますからね。それも面白いほうに変わりますから。むしろ今までよりもプロレスが輝いて見えるようになる。
坂井 だからこそ、プロレスはすごいんですよ。

●『サルまん』プラス『編集王』

上田 僕はマッスルを観て、自分はこういう漫画が描きたかったんだなって気づかされたんです。キャラ同士がぶつかりあうテンションの高さがあって、それでいてプロレスを使いながら、プロレスというジャンルそのものにも言及していく感じが。
坂井 それは『サルまん』(『サルでも描けるまんが教室』)なんじゃないですか(笑)。
上田 まあ、『サルまん』なんですけど(笑)。それに加えて、最後にはプロレス愛みたいなのもある感じが『まんが道』とか『編集王』的でもあり。『サルまん』と『編集王』が一体化したような感じ……まあそんなことは無理だと思うんですけど(笑)、それがマッスルでは成立していて、しかもナマで「バチンッ」って音がするなかで成り立ってるっていうのがすごいなと思ったんです。これをなんとか漫画でできないかなって。
左近 そう、マッスルを観てから、肉体的なギャグはどんどんやっていこうって思いましたね。やっぱりぶつかり合いっていうか。
坂井 僕は、ルノアール兄弟が描いてくれる自分の姿が、まさに理想する自分のフォルムなんですよ(笑)。
上田 ついアゴの線を入れちゃうんですよね。
坂井 三道があるっていうのは大仏と一緒ですよ。あのイメージで、高齢者とか観光客の人気もつかんでいきたいですね。
――ライバルは「セントくん」であると(笑)。松江さんはどうでしょうか。マッスルのプレゼン作戦としては。
松江 マッスルはDVDで観ても面白いんですよ。一本の作品として見れる。やっぱりドキュメンタリーですよ。冗談じゃなくヤマガタ(山形国際ドキュメンタリー映画祭)とか出品したら、いい線いくんじゃないかと思いますよ。
坂井 マジッすか!?
松江 マジです。だって、マッスルは劇場で上映しても面白いものだと思うから。ちゃんと外を向いてるんですよ。初めての人がいきなり観てもわかる。例えばプロレスを全然知らなくて「鈴木みのる? 誰それ」っていう人が観たとしても、「ああ、この人はすごく強いレスラーなんだな」っていうのがちゃんと伝わる。僕がマッスルのDVDについて常々「これはドキュメンタリー作品です」って言ってるのは、それがあるからなんです。
――というわけで、とにかくまずは試しにDVDでマッスルを観てほしいですよね。それでもしよかったら会場にも足を運んでいただければ、と。
坂井 完璧なプレゼンになったじゃないですか(笑)。

(初出:「Quick Japan」2008年6月号)