2006/07/16

磯部涼インタビュー

想像力はベッドルームと路上から」というサイトの方が前回の日記に言及してくれて(引用部がやや恣意的な気はするが)、それを読んだら、以前、磯部涼氏にインタビューしたときもそんな話したなーというのを思い出しました。けっこう関連ある記事だったので再録してみます。
(※というかオレの原稿仕事なんてこうやって自分でサルベージしてかないと歴史から抹消されてしまうのよ!)

『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』
磯部涼インタビュー


Herohai

歴史的水脈や自意識は完全スルー

ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版)は、ライター・磯部涼が日本のアンダーグラウンドなヒップ・ホップ/ハードコアシーンの現場に飛び込み、8年に渡って様々な雑誌に書き散らかしてきたテキストを編み直したブ厚い本である。磯部にとってキャリアの一里塚となる初の単行本なわけだが、ただひとつ危惧があるという。

「この本はたまたま編集側の要請で日本のアンダーグラウンドについて書いた原稿をまとめたんですけど、じつはわりとメジャーなものも好きなんですよ。実際そういう原稿もたくさん書いてるし。だから、アンダーグラウンド専門とか、身近なことばっか書いてるライターってイメージがついてしまうのはちょっと困る……」

たしかに筆者も磯部に対し、そんなイメージを持ってなかったといったらウソになる。だからといって、面と向かって「がっかりしました?」なんて言われても困惑してしまうわけだが。
とはいえ、あれだけの量のテキストを「アンダーグラウンド」に捧げるには、やっぱりそれなりに思い入れってのもあるんじゃないだろうか。

「自分の思ってるアンダーグラウンド観に的を絞ったというのはありましたね。日本ではアンダーグラウンドっていうとどうしても過去のモノを神格化する傾向があって、(裸の)ラリーズだったら永遠にラリーズのことを書いてる人とかいる。べつにそれがキライってわけじゃないけど、自分はそういうものを切り捨ててしまおうと。かわりに『いま/ここ』にいる人たちを持ち上げてやろうと思ったんです」

そうなのだ。『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』を読んでまず驚くのは、そこに一部のマニア以外は聞いたことのないような固有名詞が遠慮なくバンバン登場することだ。磯部に言わせると、それは「ポップ」だという。フィクションのように読ませることができる、と。

「だいたい『アンダーグラウンド』なんて、最初はギャグのつもりでしたから。たとえばハードコアは昔からシーンが根づいてたけど、ヒップホップに関しては、そんなものはなかった。売れてるもの以外はただマイナーだっただけで、それを無理矢理「アンダーグラウンドだ!」って騒いでた(笑)。でも、そのうちみんな、だんだん成長して……っていうか、じつはみんなけっこうホンモノだったんですね」

ギャグといえばそうかもしれない。磯部のテキストに登場するミュージシャンたち、彼らはミュータントのように、突如、姿をあらわす。ともかく、いきなり、「いま/ここ」にいる。彼らがいったいどんな歴史的水脈をたどって漂着したのか、そのいっさいを磯部は切り捨てる。だから「いま/ここ」にいる彼らは、だれもなんにも「しょってない」。そのかわり、速度と熱量だけはたっぷりとある。
そこではだれもがガシガシ行動している。生活のしんどさはあっても、内省的な苦悩はない。鬱陶しい自意識も完全スルーである。

「だって自分のことなんて書くの恥ずかしいですよ。それに文章で自分を見つめようとするものって多いじゃないですか。だからそうじゃない、もっと表面的なことを書きたいなと思って。政治的っていうか、具体的な『政治』じゃなくて、個人が行動してく上で起きる軋轢っていうか」

サウンド・デモは新しい形のパーティ

そんな磯部たちのガシガシした行動が極点に達したのが「サウンド・デモ」だった。03年、アメリカのイラク派兵に対し巻き起こった反対運動は、ここ日本でも、政治に無関心な層までがデモに駆り立てられてしまうほど大きな社会運動となった。そのうねりの中で、磯部たちは路上にサウンド・システムを持ち込み、街をパーティ空間に変えてしまうという画期的なデモンストレーションを行ったのだ。
機動隊に囲まれながら踊るのは、どんな気分だったのだろう。

「いや、フツーに興奮しますよ。レイヴとかパーティってもともと人目のつかない山奥とか廃屋みたいな面倒なところでやるんだけど、だったら一番メンドくさいところでやってやろうって。それって道路じゃないですか。始めたころなんて機動隊と揉みくちゃになったりしてすごかったですから。もう笑いましたね」

路上パーティのノリで始まったサウンド・デモは規模を拡大しながら、03年10月をピークに、翌04年2月、とりあえずのピリオドを打つ。もともと「そんなにマジメにやってたわけじゃない」磯部にとって、サウンド・デモは「新しい形のパーティ」だったという。

「でもね、最後はけっきょく飽きちゃったんですよ(笑)」

この身もフタもなさ!
しかし、これこそがライター・磯部涼の魅力にほかならない。

「なんにも足をとられたくない。とくに身近なことを書いてるので、同じところにいるとどんどんメンドくさいことになってくんですよね。なんでアイツのことは書くのにオレのことは書かないんだ、みたいな。べつに書かないことに意味なんかなくて、たんにボクの琴線に触れなかっただけで。こないだ渡したアレ、聴いてくれました? とか言われちゃうとたとえ本人はそんなつもりじゃなくても、メンドくさくなっちゃう」

磯部は、だれかになにかを「しょわせない」ように、自分自身もなにも背負おうとしない。若い子に言っておきたいのもただ一つ、「自分の身の周りで遊んでればいいんじゃない」ってこと。
なるほど、がっかりするのはもうたくさんだもんな。
(初出:『ウラBUBKA』05年6月号)