2006/02/02

フリーターにとって「自由」とは何か

freeterni

2月は昨年もっとも忙しかった月。今年はどうだろう。まだわからない。18日には杉田俊介×矢部史郎というトークセッションがある。

杉田さんの『フリーターにとって自由とは何か』は、地味な装いながらその実とても挑発的な本だ。この本については杉田さんに『ブログマガジン』という雑誌の仕事でインタビューさせて頂いたので、許可を頂きこちらに転載しておきます。ビギナー向けブログ雑誌という媒体ゆえ食いたりなさもあるかもしれないけど、だからこそ少しでも感じるところがあれば、ぜひとも『フリーターにとって「自由」とは何か』その本を手にとってみてほしいと思う。

『「フリーター」にとって自由とは何か』
杉田俊介インタビュー


足りないイスを奪いあっても未来は見えない

内閣府によると01年時点でのフリーター数417万人。そんな統計を確認するまでもなくフリーターは増え続けている。これを読んでいるあなたもフリーターかもしれないし、いまは違ってもこの先フリーターになるかもしれない。いずれ国民の2人に1人がフリーターという時代がくる、なんて予測すらあるのだから。ともかく何かが大きく変わりつつある。そんな事態に行政や学者は調査に動きだし、最近じゃ広告代理店のマーケッターまでもが(いや彼らがもっとも機に敏だ)ああだこうだ言いはじめている。
しかし、当のフリーター自身の声はなかなか聞こえてこない。生活に必死でそんなこと考えてる余裕はない? 好きでやってるんだからほっとけ? でも本当にそれでいいのだろうか――。

「いまだにフリーターにはある種の『自由』というレッテルがくっついてると思います。『会社人間からの自由』『時間が多く使える自由』みたいに。でも本当にそれは自由なのか、ということを考え直してほしいんです。一見すると拘束されてなくて自由じゃんって言われていること自体が、じつは未来を収奪されていることだったりしている」

そう語るのは、最近『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)という本を出版した杉田俊介さん(30)。杉田さんがそう考えはじめた根っこには、自身のフリーター経験がある。

「4年くらい前まで大学院で日本文学の研究者を目指してたんですが、経済的な壁にぶつかって、辞めるか続けるかで悩みつつアルバイトで食いつないでいた時期があったんです。お金がない、万一大学院に残れても仕事に結びつくかわからない、そういう精神的に追いつめられていた時期で、バイト先のコンビニや本屋でもべつに親しい仲間がいるでもなく、警備員の日雇仕事も現場での連携だけ。確実に苦しいわけです。でもこの苦しみっていうのがどこから来ているのか分からない、これはどういうことなんだろうって」

この“苦しみ”をあなたは自業自得だと思うだろうか。しかし、それだけではフリーターの置かれている状況の厳しさを説明することはできない、と杉田さんは言う。

「日本ではフリーターについて基本的に個人の問題だと思われていて、けっきょく自己責任と本人のやる気の問題で片づけられてしまいますよね。経済的な構造の問題も、心理面の問題にすりかえられてしまう。でもたとえば、大阪で野宿者支援をずっと続けている人から教わった『イス取りゲーム』の話にたとえると、10人いるのにイスは8個しかないわけです。正職員が6個とる、アルバイトが2個をとる、しかしどうしてもイスに座れないが人が2人いる。そういう状況でいくらインセンティブ(やる気)を出させてもイス取りゲームが激しくなるだけで、状況そのものは変わらない。もしくはそのゲームに乗りにくい人がますます落ちていってしまう。だから、この本ではまずそういう構造の問題があることをはっきりさせたいと思いました」

その目論見どおり『フリーターにとって「自由」とは何か』では、女性労働者/マイノリティ/資本制/高度経済成長型システム/社会保障制度/貧困の汎世界化など、フリーターを取り巻くトピックが一つ一つ検証されていく。しかもそれらがすべて杉田さんの足下をえぐるかたちで論じられるため非常に生々しいレポートとなっている。読めば読むほどにフリーターにとっての「自由」という言葉が暗いものとして響いてくる。そこにほのかでも明るい未来を見ることは難しいのだろうか。

「最近ブームになってるフリーターやニートに関する本を読むと、分析があった上で、必ず最後の方におまけ程度にヴィジョンやオルタナティヴ(代替案)が書かれている。僕自身もNPOとかワークシェアリング、ベーシックインカムといったオルタナティヴを自分なりに調べたんですが、けっきょくいまは書くことができなかった。ある人にはライトな未来像が見えてるのかもしれないんだけど、僕の目からはこういう構造的な問題が見えたとしか書けなかった。この重苦しさは僕の資質なので、しょうがないんですね。もっとポジティブな人間にならなきゃと思いこんでた時期もあったけど、というかこれを書いた直後も思ったんですが(笑)、やっぱり重苦しさを突きつめるしかなかった。だから、僕が見たものについて君たちはどう思う? その呼びかけがむしろ大事かなと思っています。あとは自分で考えてほしいっていう」

たしかに多くのフリーター本にはなんらかの改善策や代替案などが書かれている。それらは思いつきだけのトンデモなものから精神論に傾いたスローガン、実態調査に基づいた綿密な提案までさまざまで、なかには現実に役に立つものもあるだろう。それはそれで重要なことだ。ただ一方で、この『フリーターにとって「自由」とは何か』のように、フリーターを調査や研究の対象としてではなく、まさにフリーター的労働を生き、現場に巻きこまれているがゆえになかなか明るい展望は見えてこない。見ることができない。そんな抜き差しならないリアリズムに根ざしたレポートだってもっともっとあっていいはずだ。

まず自分の生活圏、プラスアルファでネット

杉田さんが『フリーターにとって「自由」とは何か』を書くにあたって、日々の労働現場での暗中模索とともに大きな支えとなったのが、知人たちとのメールやホームページ/ブログを介した意見交換だったという。そもそも出版にいたった経緯も、杉田さんのホームページ(「批評的世界」http://www5c.biglobe.ne.jp/~sugita/)に出版社の編集者が送ったメールがきっかけであった。

「2年半くらい前ですが、『フリーターにとって「自由」とは何か』のエッセンスとなる短い文章をホームページにアップしたら、それを見た人文書院の若い編集者が『これはとても重要なテーマだと思うので、ぜひ本にしませんか』っていう連絡をくれて。ただ、その文章はいずれある雑誌に発表する予定だったので一度お断りしたんですが、そうこうしているうちに発表するはずだった雑誌でいろいろあって、そのタイミングで再度オファーを頂いたんです。しかも今度は社内の企画会議も通った状態で。雑誌の方の人達も出版できるのなら遠慮せずにそっちで書いてくれと言ってくれたので、それで正式に書き始めました」

執筆中の原稿には、メール・掲示板・ブログなどでさまざまな人達と交わされた議論が反映されていった。そういう意味で『フリーターにとって「自由」とは何か』は杉田さん曰く「ある種の共著と呼んでもいい」。たしかに杉田さんのホームページをのぞくと掲示板やコメント欄でのやりとりが非常に実りあるものだったことがわかる。そこには借り物でない意見の交換があるし、生産的な議論が存在している。これは批評的・学術的なブログの多くが知識の垂れ流し状態に陥りがちな中、なかなかレアなケースにも思える。

「九州や韓国に住んでいて一度も会わないままもう数年のつきあいになる方もいますが、だいたい共通しているのは、安定不安定を問わず、自分の生活圏というものがちゃんとある人達のような気がします。まず自分の生活圏があって、プラスアルファでネットがある。どっちが上というわけではないんだけれども、そこをしっかり峻別できている人達。逆にネットに過剰な期待を抱いてたり、自分の全てを没入させたりするようなタイプの人はなんとなく去っていってしまう気がします」

いまでこそそう言える杉田さんも、かつてはネットに過剰な期待をし、没入してしまう側面もあったという。ちょうど大学院を休学し、先の見えないフリーター生活でボロボロになっていた時期のことだ。ネットにアクセスすれば「何か」がある気がした。逆にいえばそれほど追いつめられていたのだろう。だがそんな感覚は次第に醒めていく。図らずもそれは杉田さんが自分なりの生活圏を見出していく流れと並行していた。障害者サポートの仕事に従事するようになり、ホームぺージの日記も1年ほど前からブログ(「いちヘルパーの小規模な日常」http://d.hatena.ne.jp/sugitasyunsuke/)に移行して更新するようになった。

「不安定にあっちこっち移動しながら仕事してる僕みたいな人間にとって、どこからでも更新できるブログはすごく便利ですよね。記事に対するコメント機能も、昔の掲示板システムに比べて本文とうまく連携するのがいいと思う。ただブログ特有の、特に『はてなダイアリー』に顕著かもしれないけど“閉塞感”ていうのもあって。僕の本はいまのところブログで色んな反応があって、好意的な書評も多かったりするんですが、じゃあブログと関わりがない人はどういう感想を持つのか、というのがほとんど見えない。そういう偏りは感じます。けっきょく自分もブログを使って発信してるんですが、そういった感覚は常に持っています」

たしかにフリーター労働はブログの外側にはるか広大に横たわる現実の中にある。ブログのような素早い反応は望むべくもないだろう。だからいまはただ、この本が静かに確実に読まれるべき読者の手に渡っていくことを願うことしかできない。

「とにかく自分の見える範囲で淡々と書き続けていくことが大事だと思ってます。当然ですけど本を1冊出したぐらいで世の中も自分の人生も変わるわけではないし。仕事に関しては、いまの障害者サポートっていうのがとても不安定な仕事なので、副業を身につけたいですね。たとえば今回の出版をきっかけにライターの仕事が増えれば、それは今後のライフスタイルを思考する上でもすごく重要だと考えてます。『副業』というと正規の仕事があってプラスアルファのこづかい稼ぎって感じですが、もう少し積極的にとらえると一つの仕事だけにとらわれない『複数業』という考え方もできる。もちろん生活の必然からそうせざるを得ない場合もあるし。これからはそうやって複数の収入ルートを確保する中から生活をコントロールしていく人が、よくもわるくも増えていかざるをえないと思うんです」